もともとの寒天の原料はてんぐさですが、現在はいろいろな海藻が使われています。
しかもそれらは世界中で採取され、日本に輸入されています。
寒天の原料について詳しく説明しましょう。
寒天の原料はもともとはてんぐさでしたが、近年ではさまざまな海藻が使われています。
そもそもてんぐさも1つの海藻の名前ではありません。アマノリ(のり)と同じ紅藻類のうち、マクサ、オバクサ、ヒラクサ、オオブサなど、杉の葉状をした海藻の総称です。
てんぐさは温帯の深い海の岩礁に育ち、最も良質とされるマクサは、古くから伊豆半島や伊豆諸島で採取されてきました。岩礁に育つために養殖がむずかしいのですが、現在は伊豆半島や伊勢湾などで養殖が試みられています。
海外でも韓国や中国、東南アジア、スペイン、モロッコ、ポルトガル、メキシコ、南アフリカなどでとれ、現在日本で寒天作りに使われるてんぐさの半分以上は輸入品です。ただ、てんぐさの成分は、育った海の温度や成分によって影響を受け、できた寒天の品質も微妙に異なるため、昔は老舗の和菓子屋などでは、産地にこだわって寒天を選んだといいます。
てんぐさに並ぶ寒天の主原料はオゴノリです。近年はてんぐさの3倍もの量が使われ、いまやオゴノリのほうが主役といってもよい状況です。
オゴノリもてんぐさと同じ紅藻類ですが、浅い砂地に育つ糸状の粘りけのある海藻です。湯を通すと緑色になり、汁の実や刺し身のつまなどに使われて、日本でも古くから食用にされてきました。
ちなみに、同じ紅藻類のエゴノリ、イギスも古くから食用にされ、煮とかしてかためたものが、エゴノリは福岡県で「おきゅうと」、福島県や新潟県で「えご練り」、佐渡ではロール状に巻いた「いご練り」、イギスは瀬戸内海沿岸で「イギス豆腐」と呼ばれて親しまれています。これらもオゴノリとともに寒天の原料に使われていました。
かつては、これらのてんぐさ以外の紅藻類は副材料にすぎませんでした。てんぐさは煮とかして冷やせば自然にかたまりますが、オゴノリなどはかたまらないからです。
てんぐさもオゴノリも単糖類の一種のガラクトースがつながったものですが、てんぐさはアガロースと呼ばれる中性ガラクタンが多く、オゴノリはアガロペクチ
ンと呼ばれる酸性ガラクタンが多く含まれています。寒天が冷えてかたまるゲル化はアガロースによるものです。アガロペクチンが多いほど粘りや弾力は強くな
りますが、酸性がじゃまをしてゲル化しないのです。
そこで、水酸化ナトリウムを加えて酸性ガラクタンを中和するアルカリ処理法が日本で開発されました。この技術によってオゴノリから良質な寒天ができるようになり、オゴノリの利用が一気に増えたのです。
さらに、凍結する代わりに機械で圧縮して脱水する圧搾脱水法が導入され、用途によってゲル化の強さや溶解温度を細かく調節する技術も発達してきました。寒天が食品以外の各分野で幅広く利用されるようになったのは、こうした工業寒天の発展によるものです。
オゴノリは北海道から沖縄まで日本沿岸で広く採取されますが、世界でもほぼ全地球的といってよいほど各地でとれ、世界の海藻の生産量のうち、こんぶ、のり、わかめに次いで第4位を占めています。
ただ、オゴノリを食用にするのは日本、韓国、中国、フィリピンやインドネシア、タイ、マレーシアくらいで、多くの国では医薬品や細菌培地用、肥料や飼料、土質改良材などに使われています。
日本では年間2000トンのオゴノリをとっていますが、その3~4倍もの量を世界各地から輸入しています。最大の輸入国はチリで、次いでフィリピン、南アフリカ、ブラジルと続きます。
てんぐさも半分近くが輸入品です。日本のお家芸である寒天作りは、まさに全地球の海洋資源に支えられているのです。
「かんてんレシピクラブ」 (女子栄養大学出版部)より